『走れない』と医者に言われたサッカー選手のタイ4年目の挑戦

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今年からコンサドーレ札幌でプレーするタイ人Jリーガーのチャナティップの目覚ましい活躍、元Jリーガーや日本代表経験者のタイリーグ参戦などによって日本での認知度も上がりつつあるタイサッカー。しかし高額な年俸など一般に知られるタイサッカーのイメージは部分的なものでもある。今年タイサッカー協会では変革が起きた。1部から4部までがプロリーグとなり、タイサッカーの裾野はさらに広がったのかもしれない。しかし華やかな舞台の影で厳しい環境でプレーする選手が多いのもまた事実だ。そんな中、今年でタイでの3シーズン目をT4のスラタニシティFCの一員として戦う渡部大河に話を聞いた。

渡部大河

仙台出身の25歳。ヴァンフォーレ甲府ユースを退団後、単身ブラジルへ。翌年に東北リーグの塩釜FCで1年間プレーし、再びブラジルへ。ブラジルではプロ契約には至らなかったものの、セミプロとして計3年間プレー。2014シーズンよりタイへ活躍の場を求めた。

Image by Suratthani city FC

Q.なぜタイでプレーすることを選んだのですか

地元仙台出身の知り合いを通じてタイで代理人をしている方を紹介して頂いたのが始まりでした。ブラジルにいる頃から東南アジアサッカーの情報は耳にしていましたが、そのタイミングで行っても外国人が既に溢れていて、もう自分が行っても遅いだろうなと漠然と思っていたんです。しかし、紹介して頂いた代理人の方の話を聞くうちに、プロとしてプレーできるチャンスがあるかもしれないと思うようになっていました。

Q.契約にはどういう経緯で至ったのですか

自分がタイにトライアウトに来たのは前期シーズンが終わったタイミングでした。前期に契約していたアジア枠の選手が怪我で退団したということもあり、練習に参加してあっさり契約が決まってしまいました。練習試合に出場し、そこでは楽しくプレーできて手応えもありましたが、まさかこんなに早く決まるとはと内心驚いていましたね。

Q.タイに来て困ったことはありましたか

チームに合流して最初は全然出場機会がもらえなかったのはきつかったですね。言葉の問題も大きかったと思いますが、チームが求めるボランチ像と自分が違ったのかなと思っています。しかし、フレンドリーなタイ人チームメイトには助けられました。ブラジル人もタイ人もなんとなく似ている部分があり、細かいことは気にせず、自分の長所を伸ばそうとする姿勢は自分としても一緒にやりやすく感じました。タイ人選手と同じ生活をしていましたが、そういった生活はブラジルでも慣れていたので苦はありませんでした。扇風機があればタイの暑さも全然大丈夫ですね。

Q.上手く適応するために心がけていることは

特にこれというものはありませんが、練習では絶対に手を抜かないようにしています。日本では普通なことだと思いますが、タイではそうではない。例えば走りのトレーニングでもタイ人の選手は大体で手を抜いてやめてしまうようなところがあるんです。自分は運動量を武器にしていますし、練習から「こいつは走れるぞ」と思わせるためにも自分で追い込むようにしています。

コミュニケーションに関してはタイ人、外国人関係なくグラウンドを離れれば仲良くやっています。コーチとのコミュニケーションに関してはタイ人は年上の人に対して歯向かったりすることを嫌うところがあるので、出来る限り意見を言ったりはしません。納得がいかないことは多々ありますが、自分が出来ることに取り組もうというスタンスでやっています。目先の感情ではなくて、もっと先を見越して取り組んでいるつもりです。

Q.今シーズンを振り返って

今シーズンはチームとしても結果が出ず苦しいシーズンでした。ギリギリで降格を免れたのでホッとしています。個人としては前期はサイドバックとしてほぼ全試合に出場していましたが、後期からは新しい選手が沢山入って来たこともあり、出場機会がだいぶ減ってしまいました。タイでは結構多いと思いますが、オーナーの意見が大きく影響するチームだったのでその辺にも苦心しましたね。

タイに来た当初と比べると自分の良さを試合の中で出せるようになったと感じています。試合を重ねて場慣れしたということが大きかったなと。しかし外国人として怖さがないというのは自分でもわかっています。自分が変わらなければやっていけないですね。メンタルの強さが必要だと思っています。

Q.これから先の目標・夢

自分が掲げている大きな目標みたいなものはありません。ただこれからもプロとしてプレーしていきたい。チームに必要とされる選手になって、もっとサッカーが上手くなりたい。必要としてくれるチームがあればどこへでも行きたいと思っています。

自分は生まれた時に脳内で問題が発見されたらしく、医者に『成長しても走れるようにすらならないかもしれない』と言われたそうです。そんな自分がプロとして大好きなサッカーをプレーできる。どこまでやれるか、どこまで走れるか、そこには強い思いを持っていつもプレーしています。

強い気持ちを内に秘め、感謝の心、そしてサッカーを楽しむ気持ちをいつも忘れない渡部。これからのさらなる活躍に期待したい。

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